そのほか読んだもの 02

Tessa Hadley’s “The Bunty Club”

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3人姉妹の群像劇であり、イシューのある話ではない。あらゆるところに家族の記憶が薄く色のついた透明な亡霊のようにしみついた、ビクトリア朝風の家をひとつの額縁として、あっちこっちで彼女たちが気ままにたゆたっている、そんな物語だ。読み終えた直後は強い印象の残らなかった短編だけれど、そんな読後感やここに書かれた時間たち、そして結び方、すべてひっくるめて「幸福」と呼んでしまいたい気もする。強い物語よりも、いつかどこかで読み返したくなるのはこういうテキストかもしれない。


向田邦子『隣りの女』

新装版 隣りの女 (文春文庫)

新装版 隣りの女 (文春文庫)

  • 作者:向田 邦子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/11/10
  • メディア: 文庫

短編を5つ収録。どの話も、起きる出来事や展開が作為的すぎる気がする。たとえば表題作。隣りの女のところに来た男の情事中の声が忘れられず、仕事場に押しかけて関係を持ってしまう…というところまでは(駅名を言っていく男の声に欲情するというのは、文字で見るとかなり間が抜けているものの)まあまあ納得できるのだが、そのあと男を追いかけてニューヨークにまで飛んでしまう。もちろんどんなストーリーもそれぞれに作られたものであるわけだけど、その作為の中で何か普遍的なものを描こうとして作り手は頑張っているのではないか。人間の、ある種不変の心の機微とでもいったものが、この短編集にはあまり出てこない。唯一ちょっとよかったのは、勤め先に来る出前持ちの男が実は父の隠し種だったということがわかる「下駄」。ひたひたと生活に忍び寄ってくる男の所作とか、少しずつコントロールがきかなくなっていく主人公の心情は、読んでいて面白く感じるものがあった。

向田邦子は名文家という評価を受けている印象があるが、別に名文ではないと思う。少なくともこの短編集について言えば、たとえば主語をはっきり書かずに文ごとに切り替え、なおかつちゃんと意味をとれるようにしていたり、繰り返しを極力避けて豊富な言い換えで文を構成していたりするあたりに「名文っぽさ」を感じられなくもないが、特に感銘を受けるわけでもない。伝統的ではあるのだろうけれど古臭い感じは否めないし、たまに新聞文体にも見えてしまうのが興ざめなところ。


東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』

自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)

自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)

  • 作者:東田 直樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/06/17
  • メディア: 文庫

当事者がストレートな言葉でその苦しみを綴ることによって、感覚そのものが伝わってくるようにさえ感じる。似た所作を持つこどもの保護者には福音のようなテキストだろう。もちろん、この本に書かれていることとはまったく別の仕方で世界を感じたり、苦しんだりしている人もいるのだろうけれど。